cling

 君に出逢えた、幸せを噛み締める。

ラピスラズリ・リリィ 07

さん、どうも」

 次の日の夜、自主練習の時間、黒子いつもと変わりない様子で第四体育館で練習をしていた。

「黒子……お前」

 彼は変わらず練習していた。落ち込んだ様子はない。一生懸命頑張る彼が、そこにいた。

「なんで昨日いなかったんだよ?!心配したじゃねぇか!!馬鹿っ」
、さん……?」
「本当に、よかった……」
「え?」
「辞めないでいてくれて……よかった」

 一生懸命な人が、真摯な人が、残ってくれて、練習してくれて。

「……ご心配を、おかけしてたようで、何か、すみません」
「いや、私が勝手に心配してただけだから、気にすんな」
「はあ……あの、ところでさん」
「ん、なんだ?」

 ほっと胸をなでおろしながら、私は黒子に指摘するまでそのことに気づいていなかった。

「口調が」
「あ」

 素の方の自分で喋ってしまっていたことに。

「そんなキャラだったんですね、さん」
「ほほほ他の人には黙っておいてもらってもいいですか黒子くん」
「別に、言いふらしたりはしませんけど」
「小学校にやんちゃしてた頃の口調で……」
「なるほど」
「とにかく内密にお願いいただけますか……」
「分かりました」

 なんとか納得してもらいました。



 次の日の昼休み、私は赤司と一軍部室で昼食を共にしていた。

は、青峰と桃井といつからの付き合いなんだ」

 何気ない会話の一部から、それは始まった。

「んーと、小学校の頃にこっちに転校してきて、それから、かな。ちなみに、さつきと大輝は生まれた時から。家が隣同士だったからね。私は、二人の向かいの家に越してきたんだ」

 それは、平凡でありふれたものだったのだけど、私にとっては運命の出逢いだったんだ。



 母親と一緒に、引越しの挨拶に回っている時だった。母親に連れられて、私はその扉を開いた。

「こんにちは、向かいに引っ越してきたです、これ、つまらないものですが」

 定型文の挨拶を済ませているところだった。

「お母さん、何もらったのー?」
「こら、さつき!」

 挨拶をしていた女の人の影から、ひょっこりと顔を出したのがさつきだった。
、ご挨拶なさい」
「あ、あの、です」
「私は桃井さつき!よろしくね!」

 こちらこそ、よろしく、という言葉を続けようと思っていた時だった。突然背後から声が飛んできた。

「さつきー!!遊びに行こうぜー!!」

 その感動の出会いに乱入してきたのは、大輝だった。

「お、誰だお前?」
「私は」
ちゃんっていうの!お向かいに越してきたんだって」
「オレは大輝ってんだ!よろしくな!」
「よ、よろしく」
ちゃんも一緒に遊ぼう!」
「行こうぜ、

 そう言って、さつきは私の手を掴んだ。引っ込み思案だった私を、新しい世界に連れ出してくれたのが、二人だった。



「気づいたら、さつきがとても好きだった」
「出会いの経緯はわかったが、好きになったきっかけはさっぱり分からないよ、
「まあ、だって話してないしな」
「……」

 赤司は恨めしそうに睨んできた。だったら話せよ、と目で訴えかけているようだ。

「ごめんって。うん、話す機会があったら、また、な」

 そこでタイミングよく、昼休み終了のチャイムが鳴った。私は荷物を持って、立ち上がり、部室の出口に向かって足をすすめる。

「ほら、征十郎。行こうぜ。遅刻しちまう」
「……覚えておくからな、
「どうしてそんなにムキになってんだよ」
「知りたいんだ」

 扉に手をかけたところで振り返れば、赤司は真っ直ぐな目で私を見つめていた。

のことが、もっと、知りたいんだ」

 赤司は私に歩み寄り、私の肩に頭を預ける。最近好きだな、これ。

「お疲れだな、副将」
「はぐらかさないでくれ」
「はいはい」

 赤司の背中に手を回し、ほんの少しだけ抱きしめて、すぐに開放した。顔をあげた赤司は、少し満足した様子だった。

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14.02.23 明那
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