cling
君に出逢えた、幸せを噛み締める。
ラピスラズリ・リリィ 07
「さん、どうも」
次の日の夜、自主練習の時間、黒子いつもと変わりない様子で第四体育館で練習をしていた。
「黒子……お前」
彼は変わらず練習していた。落ち込んだ様子はない。一生懸命頑張る彼が、そこにいた。
「なんで昨日いなかったんだよ?!心配したじゃねぇか!!馬鹿っ」
「、さん……?」
「本当に、よかった……」
「え?」
「辞めないでいてくれて……よかった」
一生懸命な人が、真摯な人が、残ってくれて、練習してくれて。
「……ご心配を、おかけしてたようで、何か、すみません」
「いや、私が勝手に心配してただけだから、気にすんな」
「はあ……あの、ところでさん」
「ん、なんだ?」
ほっと胸をなでおろしながら、私は黒子に指摘するまでそのことに気づいていなかった。
「口調が」
「あ」
素の方の自分で喋ってしまっていたことに。
「そんなキャラだったんですね、さん」
「ほほほ他の人には黙っておいてもらってもいいですか黒子くん」
「別に、言いふらしたりはしませんけど」
「小学校にやんちゃしてた頃の口調で……」
「なるほど」
「とにかく内密にお願いいただけますか……」
「分かりました」
なんとか納得してもらいました。
*
次の日の昼休み、私は赤司と一軍部室で昼食を共にしていた。
「は、青峰と桃井といつからの付き合いなんだ」
何気ない会話の一部から、それは始まった。
「んーと、小学校の頃にこっちに転校してきて、それから、かな。ちなみに、さつきと大輝は生まれた時から。家が隣同士だったからね。私は、二人の向かいの家に越してきたんだ」
それは、平凡でありふれたものだったのだけど、私にとっては運命の出逢いだったんだ。
*
母親と一緒に、引越しの挨拶に回っている時だった。母親に連れられて、私はその扉を開いた。
「こんにちは、向かいに引っ越してきたです、これ、つまらないものですが」
定型文の挨拶を済ませているところだった。
「お母さん、何もらったのー?」
「こら、さつき!」
挨拶をしていた女の人の影から、ひょっこりと顔を出したのがさつきだった。
「、ご挨拶なさい」
「あ、あの、、です」
「私は桃井さつき!よろしくね!」
こちらこそ、よろしく、という言葉を続けようと思っていた時だった。突然背後から声が飛んできた。
「さつきー!!遊びに行こうぜー!!」
その感動の出会いに乱入してきたのは、大輝だった。
「お、誰だお前?」
「私は」
「ちゃんっていうの!お向かいに越してきたんだって」
「オレは大輝ってんだ!よろしくな!」
「よ、よろしく」
「ちゃんも一緒に遊ぼう!」
「行こうぜ、」
そう言って、さつきは私の手を掴んだ。引っ込み思案だった私を、新しい世界に連れ出してくれたのが、二人だった。
*
「気づいたら、さつきがとても好きだった」
「出会いの経緯はわかったが、好きになったきっかけはさっぱり分からないよ、」
「まあ、だって話してないしな」
「……」
赤司は恨めしそうに睨んできた。だったら話せよ、と目で訴えかけているようだ。
「ごめんって。うん、話す機会があったら、また、な」
そこでタイミングよく、昼休み終了のチャイムが鳴った。私は荷物を持って、立ち上がり、部室の出口に向かって足をすすめる。
「ほら、征十郎。行こうぜ。遅刻しちまう」
「……覚えておくからな、」
「どうしてそんなにムキになってんだよ」
「知りたいんだ」
扉に手をかけたところで振り返れば、赤司は真っ直ぐな目で私を見つめていた。
「のことが、もっと、知りたいんだ」
赤司は私に歩み寄り、私の肩に頭を預ける。最近好きだな、これ。
「お疲れだな、副将」
「はぐらかさないでくれ」
「はいはい」
赤司の背中に手を回し、ほんの少しだけ抱きしめて、すぐに開放した。顔をあげた赤司は、少し満足した様子だった。
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14.02.23 明那