あなたは優しい
周りはただそれに気付こうとしないだけ
気付いて隣にいる私は 幸せモノだと思う



いつも隣にいる幸せ



「オイ、。そこで何してんだ?」
いつもと同じように頭上から聞こえてくる問いかけ。

「何って、昼寝だけど・・・」
私は今、つぼみの膨らんだ桜の木の下に寝転んでるところ。
相手の問いに答えながらも、桜はいつになったら咲くんだろうかなんて考えてた。

「だからって毎日毎日俺の鞄を枕にしてんじゃねぇ」
少し怒り気味、半ば呆れ気味な声。これもいつもと同じ。
その声の持ち主“亜久津仁”は、私の頭の下にあった鞄を取り上げる。
が、すかさず私は鞄の紐を握った。仁はため息をつくと嫌々口を開いた。

「・・・・・・今日は何だ?」
「ん、千石にお弁当半分持ってかれた」
「毎度の事ながら、しょうもねぇな」
「何を今更」
「自覚してんなら毎日帰るのに付き合わねぇぞ」
「あースイマセンでした。だから一緒に帰ろ」
特に感情が込められた様子の無い会話。
私は毎日放課後に、鞄を枕に寝て仁を待ち、その日の愚痴を一緒に帰りながらぶちまけている。
一種のストレス解消方?・・・・・・そうかもしれない。
実のところそれだけじゃなくて、毎日この時間が楽しみで仕方が無い。
その日の愚痴が無かったところで、一緒に帰る事は止めない。
止めてしまえば、仁との関係が一切なくなりそうで恐かったから。

なんとなく惹かれてるんだ
皆は仁に近寄らないけど
私は仁に近寄りたいと思ってる
はっきり言えば“好き”ってことだろうか?



「あのさー仁」
「何だ」
「煙草吸うのやめなよ」
「何でてめぇに指図されなきゃなんねーんだよ」
「まぁ、それもそうか」
「結局どっちなんだよ」
一緒に並んで帰るが、続くのは他愛も無い会話。
それ程盛り上がる話も無いのだが、会話が途切れる事は無い。
でも、それが心地よい。

「テニスは?」
「やめたって何回も言っただろ」
「今度教えてよ」
「だからやめたって言ってんだろ」
「でもテニス上手いじゃん。だから教えて」
「気が向いたらな」
「確定してよ」
特に笑顔というわけでもなくて、ただ無表情のまま続いてく会話。
愚痴はどこにいった、という突っ込みすら仁も私も忘れている。



「仁」
「何だ」
「今日ってなんの日でしょう」
「さぁな」
唐突に質問し、仁にむかって悪戯っぽい笑みを向ける私。
そして、問いかけの答えを一番よく知ってるくせにしらばっくれる仁。

「よく知ってるくせに。仁って実は恥ずかしがりや?
「んなっ・・・?!」
からかうと仁は少し赤くなって、私がアハハ、と笑うと仁は恥ずかしそうにあたしから目線を反らし、舌打ちをした。

「正解発表!」
ややハイテンションで言うと仁は呆れてため息をついたが気にしない。



「仁の誕生日、でしょ」


あなたが今ここにいられるのも
今私と会話する事が出来るのも
何年か前のこの日に生まれてきてくれたおかげ
だから私は感謝を込めて

「誕生日おめでと、仁」
優しいあなたに言葉を届ける

「誕生日祝いなんて、ガキじゃねぇか・・・・・・」
仁は恥ずかしそうにごまかす。

「くだらねぇことばっかり覚えてやがって」
照れくさそうに言ったその一言が私への"ありがとう"のような気がして、嬉しかった。



「さっさと帰るぞ」

あなたに形のはっきりした幸せは求めない
いつでも隣にいる事が幸せだから

、さっさと来い!」

いつでも隣にいさせてくれる事が幸せだから

「はーい」

いつもと同じ、気の抜けたような返事をして
今日もまたあなたの隣にいます





2005.04.02. inserted by FC2 system