この一瞬が、愛しい。



流 れ 星



『星、見に行かない?』
そんなメールがから入ったのは10月28日午後10時半のことだった。また唐突な……と思うものの、特に用事のなかった俺は『いいよ』と、たった三文字で返信する。すると、すぐにまた携帯が震えた。

『午後11時半に丘の上公園集合』
その用件だけのメールに目を通した後、俺は携帯と財布を持って家を出た。

その丘の上公園というのは名前の通り丘の上にある公園のことだ。俺の家からそんなに遠くはないが、丘の上にあるため階段を登るのに多少時間がかかる。との待ち合わせに遅れたら後が怖いので俺は早めに家を出た。が、一時間はさすがに早かったかもしれないと思い、途中コンビニでお菓子を買ったりして時間を潰しながら待ち合わせ場所へと足を運んだ。

公園に着いたのは集合の五分前。はすでにそこで大きめのレジャーシートを広げ、その上に座っていた。

「滝、遅い」
「いやいや、俺が遅いんじゃなくてが早いだけだから」
「ツッコミありがとう」
「……」
ツッコミのしようがなくて黙り込んだ俺に、は勝ち誇った笑みを浮かべる。

「まあ、いつまでも突っ立ってないで座りなよ」
「あ、どうも」
彼女に促され、俺は彼女の隣に腰を下ろした。

「ここってさ、この街では空に近いからいつもよりたくさん星が見えるよね」
「うん、そうだよねー……」
空を見上げる。そこに広がる銀世界。ここへ向かう途中に見上げた空よりも輝きが増していた。同じ空とは思えない。引き込まれそうなほどの美しさから、長い間目が離せなかった。

「……首、痛い」
目を離すきっかけとなったのはのそんな一言だった。そういわれて初めて、自分の首にも痛みを感じた。

「さすがに座ったままだとキツイなー……」
ガサリ、と音をたてて、はレジャーシートに寝転がった。少し目を見開いてから、何か宝物を見つけた子供のような、無邪気な表情で俺に言った。

「滝も寝転がったら?こうしてると首痛くないし、景色もいいよ」
言われるまま寝転がってみた。視界いっぱいに星空が広がる。さっきとそんなに変わらないはずなのに、無駄な街の光が視界に入らないからだろうか、さっきよりも魅力的だった。そして、いつの間にか首の痛みも消えていた。

「ね、凄いでしょ」
「……う、うん」
「ん、どうかした?」
「別に」
「……あっそ」
話しかけられて横を向くと、すぐそこにあるの顔。その近さに心臓が飛び出しそうになっただなんて、絶対言えない。跳ねる心臓をなんとか抑えこみ、誤魔化す。彼女もすぐに引いてくれて、視線を空へと戻す。安心して吐き出しそうになったため息も抑えて、俺も視線を空へと戻した。
その時だった。

「「あっ」」
光が流れた瞬間、二つの声が重なった。ひとつはいつの間にか自分の口から出てきたもので、もうひとつはのものだった。重なった声の後に、柔らかい声が聞こえた。

「ねぇ、滝」
「ん、何?」
「流れ星が流れてる間に願い事を三回も言うなんて、絶対無理だよね」
「うん、小さい頃から頑張ってるけど、『あっ』としか言えない」
「でもさ、流れるその瞬間を見れたときって、なんでだかすっごく嬉しい。願い事を言うことを忘れちゃうくらい、嬉しいよね」
「……うん」
空を見上げたままのの瞳はきらきらと輝いていて、嬉しそうだった。そんな彼女を横で見ながら、俺は小さく頷いた。

この一瞬が愛しい。流れ星が流れた一瞬も、その一瞬を彼女と共に見ることの出来た一瞬も。



「ねぇ、滝」
さっきと同じ、言葉が隣で紡がれた。俺もさっきと変わらない返事を返す。

「誕生日おめでとう」
微笑みと共に俺に送られたその言葉。時計を見ると並ぶ四つの零。綺麗な星空の下。彼女の隣。



この一瞬が愛し過ぎて、永遠に続けばいいのにと、矛盾した想いが俺を満たした。




Oct.29th Happy birthday Haginosuke Taki!




06.10.30. (二時間間に合いませんでした……/泣) inserted by FC2 system