いつもは冗談ばかりだけど 時に本気だったりする



春風に誘われて恋に落ちた



「六角の皆様!テニス部マネージャーの参上っ!!!」
「遅れてきた奴が威張って登場するな!」
いつものようにボケてテニス部に顔を出し、バネさんに突っ込まれる、中学3年生です。

大好きなバネさんに構ってもらいたいから、ボケてるって事はサエさんと亮しか知らない。
あいつらにだけは、知られたくなかったんだけど・・・・・・あいつらは鋭すぎるんだよ。


現在休憩時間。
本来なら、マネージャーはドリンクとかタオルとか渡さなきゃならないんだけどあたしはやってません。
普通にダビデと雑談中です。

「ダビデ、あたし面白いもの持って来たんだー!」
あたしはそう言ってラジカセをダビデの前にドンと置いた。

「何ですか、コレ?」
「まぁ、コレ聞いたら分かるよ」
そういってラジカセの再生ボタンを押す。
途端、大音量で音楽が流れ始めた。



♪〜 春風に誘われて恋に落ちた 眩しいくらいの君に恋をしている ありのまま僕のまま君を想う 春風よ僕に微笑んでおくれよ 〜♪



六角のテニスコート全体に響き渡ったつじあやのの『春風』という曲のサビ部分。
バネさん以外皆、爆笑しているのは気のせいなんかじゃありません。
ちゃんとした現実です。
あたしとダビデなんか大声で笑ってます。

っお前の仕業かぁっっっ!!!!!」
『バシィッ』
「痛っ!!!」
爆笑していたあたしはバネさんにハリセンで叩かれた。
乾いた良い音が響き、バネさんが停止ボタンを押したのか、ラジカセから流れていた曲が止まった。
皆の笑いが止まる事は無かったけど。

、俺の名前は何だと思う?」
「黒羽春風です」
「じゃぁあの曲は故意に流したんだな・・・?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙。そして睨み合い。


「に、逃げるが勝ち!!!」
睨み合いに負けて、あたしはその場から逃げ出しました。
だってバネさんの殺気が凄かったんだもん・・・。

「待て、ーっ!!!」
もちろん、バネさんが追っかけてこないわけが無い。
相手はテニス部だけど、あたしだって脚力には自信があったからすぐに追いつかれる事は無かった。
途中、いつまでもお腹を抱えて笑い転げてるサエさんと亮を蹴っ飛ばしてから逃走しました。
だってムカついたんだもん。しょうがない。



+++++



「ゴメンナサイ、もうしません、許してください、バネさん」
逃げ出して約1時間後。
安心しきって海辺で桜餅(自家製)食べてた所、首根っこ掴まれてテニスコートに連行されました。

「馬鹿だなぁ、桜餅食べてるから悪いんだよ
「五月蝿い、亮・・・・・・あーっ!!!あたしの自家製桜餅食ってんじゃないわよ!!!
ー・・・お前は反省しているのか・・・・・・?」
「ゴメンナサイ、反省してます」
あー・・・あたしの桜餅・・・。亮のにされちゃった。
取り返したいんだけど、バネさんに睨まれてベンチの上で正座させられてて無理。

「バネさん、足が痛いんですけど・・・・・・」
「まだそうしてろ」
「・・・・・・」
相変わらず、バネさんは睨んでくる。


あーあ、やっぱり・・・・・・
大好きな人に怒られてると、少し心が痛い。
涙が出るまではしないんだけど、罪悪感が溢れてきたのは確かだと思う。


だけど、何故かあたしは無意識のうちに口を開いて歌っていた。

「・・・・・・♪〜 春風に誘われて恋に落ちた 〜♪
「・・・・・・、今なんて言った?」
歌いだしたあたしに気付いて、バネさんは再び睨んだがあたしは気にせず歌い続けた。

♪〜 眩しいくらいの君に恋をしている ありのまま僕のまま君を想う 〜♪
あたしは無表情のまま、バネさんを見つめながら歌っていた。
そんなあたしを見て、バネさんは開こうとした口を閉ざした。

♪〜 春風よ僕に微笑んでくれよ 〜♪
歌い終わってもあたしはバネさんを見つめたままでいた。
バネさんは口を開こうとしているが言葉は一向に出てこなかった。

「微笑んでくれないの?」
表情を一つも変えずに言った真剣な言葉に、バネさんは顔を赤くして目を反らした。

「・・・・・・本気か?」
「さあ」
バネさんの真面目な質問にあたしはニヤリと笑って返した。
やっぱりおちょくらないと面白くないし。

「っ・・・・・・ダビデ!練習に戻るぞ!」
ラケットを持ったバネさんは、またあたしから顔を反らして、テニスコートに入る。
それが、照れ隠しなのか、ただ呆れただけなのかは分からないけど
あたしは優越感に浸っていたりする

いつもよりも近くにいる時間が多かったから





あたしは、あなたに恋をした
だから今日もあの曲を口ずさんでる

♪〜 春風に誘われて恋に落ちた 〜♪

この歌と共にあなたに本気を届けたい
届くかどうかはあたしの気分次第なんだけど





2005.04.10. 修正2005.04.16.

inserted by FC2 system