信じてもらえないかもしれないけど 本当に真剣




常日頃から僕らは真剣




事の始まりは親友であるの一言からだ。

「真田くんに告白しなさい」
「いきなり何言い出すのよ、
(多分)私の親友は、いつもいつも突然変な事を言い出す。しかも毎回命令形。
最近、本当に親友なのか、それとも下部(しもべ)なのかよく分からなくなってきた。

「今日は真田くんの誕生日。ということで告白しなさい」
「えー・・・その前後の文の繋がりが全く見えないのは気の所為でしょうか?」
気の所為よ。さぁ、告白しに行きなさい」
黒い黒い、本当に黒い親友に迫られ、私は肯定するしかなかった。
逆らえば二度と光を浴びる事が出来ないだろうと、自分で悟ったから。



そして私は放課後、真田が居ると思われるテニスコートへ向かった。
私が密かに想いを寄せていた、真田に告白しに行くために。

本当は行きたくなかったけど、行かなければ今日の夕日が見れないだろう。
明日の朝日が見れないのではなく今日の夕日が見れないんだ。
相手に明日まで生き残ってるなんて絶対無理だ。
ともかく、そうなるくらいなら当たって砕けてしまう方がマシな気がした。
私は半ば諦めながら、重い足取りでテニスコートへと足を進める。



私が真田を好きになったのは・・・つい最近。
それまで男になんか興味なかった。
しかし、自分の彼氏が居るからとか何とかでに無理矢理男子テニス部に連れて行かれ、そこで真田と初めて会った。
興味を持ったのはその時だ。理由なんて特に無い、ただの一目惚れ。
しかし、好きになったと言っても、まともに話してさえもいない。
話した内容といえば・・・・・・これだけだ。



「中学生に見えないってよく言われるでしょ」
「や、やかましいっ!」

以上。
好かれるような事を話した記憶もした覚えもない。
怒鳴られるような事を一言言っただけ。しかもどうでも良い事だし。

真田は私を覚えていないだろう。
あの有名なテニス部、想いを寄せる女なんか私以外にもたくさん居る。
そんな人達は真田に好かれようと、日々好感度を上げようと頑張っているのだろう。
その中に、好みの人が一人くらい居るだろうし、面倒くさいからといって何もしない私が勝てるわけが無い。

「当たって砕けろ」
冗談っぽい言葉だけど、私は今真剣にそうつぶやいていた。



テニスコートに着くと、結構な数の女子生徒が集まっていた。
真ん中に居るのは、今日誕生日である真田だ。
一人だけ背が高くて飛び出ていたので、真田がいつもよりも険しい顔をしていたのが窺えた。
一瞬目が合ったが、すぐに女子生徒の甲高い声に押されてか、真田はすぐに目線を下に戻した。
別に哀しくは無くて、逆に少しでも目が合って嬉しかった。

私はあの中に入っていく気がしなかったので、真田に告白する事を諦めて帰ろうとした。

が、

の)殺気を感じたのでやめておきました。
結局、私は部室前で真田を待つ事にした。



さん?」
部室の壁にもたれかかり、しばらくしゃがんでいると突然後ろから声がした。

「私の事、知ってるんですか?」
「うん、から聞いてるよ」
・・・?」
「俺、の彼氏。幸村って言うんだ」
「へぇ」
だからこの人はこんなにも黒そうなんだ。

「何か言いたいのかな?」
「い・・・いや、何も言いたいことなんかないけど」
心の中を読みながら、笑顔で接しられると余計に恐いです。
それでも、それに慣れている自分がもっと恐い。
まぁ、そんな私の親友の彼氏である黒い幸村君は私の横に座る。
私たちの目線の先には女子生徒に囲まれている真田が居た。

「真田って意外と人気あるんだね」
「意外と・・・ってなんだよ。私はかっこいいと思うんだけど」
私がそう口に出すと、幸村は驚いた顔でこちらを見た。

「・・・・・・真剣に言ってるの?」
「冗談でこんな事言うなんて性質悪いじゃない。私はいつでも真剣なつもり
私は真面目な口調でそう言った。幸村は表情を元に戻し口を開く。

「そうだね、かっこいいよね」
「そうですか?」
私がそういった瞬間、私たちの周りの温度は5℃くらい下がっただろう。

「・・・・・・どっちなのかな」
「今のは冗談です」
黒い幸村と交流していると、やっと女子生徒から解放された真田が部室へと向かってきた。
女子生徒にあれだけ騒がれて、いつもより険しい顔をしていた。

「いつもより老けて見えるよ」
「やかましいわ・・・・・・」
返ってきた声はいつもの威勢の良い声ではなく、疲れの混じっていた声だった。


「誕生日おめでとう」
「・・・知っていたのか?」
「うん、まぁね。好きな人の誕生日ぐらい普通覚えておかないと」
「?!」
私は特に感情を込めるわけでもなく、ドサクサに紛れて自分の想いを伝える。
面と向かって言うのが恥ずかしいなんて、にでも言えない。
真田は何も言わず、動かず、ただ固まっている。
そりゃそうだ、いきなりこんな事を前触れも無く聞いたら誰だってこうなりそうだ。
幸村は「突然にも程があるでしょ」とため息混じりで言っていたけど、別に気にしない。



約一分後。やっと真田が口を開いた。
というか固まってる時間が長すぎ・・・・・・とか言えるわけがないので心の中だけにしまっておく。

「真剣に言っているのか・・・・・・?」
「うん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
真田は私の返事に困っているのか、どんな言葉を返そうか必死に考えている。
見てて楽しいとか、言ったら殴られそうだからやめた。

「じゃあ私、時間無いからもう帰るよ。バイバイ」
もう十分に楽しんで、私はその場から立ち去ろうとした。
答えなんて分かりきったことだし、聞かない方が救われると思ったっていう理由もある。
そんなことはすぐに頭の中から抹消し、真田達に背を向ける。

「ちょ・・・ちょっと待て」
後ろからした声に、私は立ち止まって振り返る。もちろん、その声の持ち主は真田。

「実は・・・俺もの事が・・・「真田もの事が好きなんだって」
「ゆ・・・幸村?!」
真田が言おうとしていたセリフを要約し、人の大事なセリフをとった幸村。
幸村、あなた相当腹の中黒いね。きっと血よりもどす黒いんじゃない?
・・・・・・ともかく、私は両想いだったからってそんなに喜びはしなかったわけだ。
こんな、突っ込むことしかしてないし。

「そう」
告白した理由がに殺されるのが恐ろしかったから』なんてほんの少し虚しいじゃない。
だから私はただ短い言葉を零しただけだった。

「付き合って・・・くれないか?」
恥ずかしそうに言う真田。
何か意外な一面を見れて嬉しかった・・・というのもあるけど、どっちかというと面白かった。

「良いよ。これからよろしく」
私は笑顔を見せるわけでもなく、普通に言った。内心では凄く喜んでいた。
しかし、私はそんな心を外に晒す事は一生無いだろう。素直じゃないから。



私は後ろから箱を取り出し、それを真田に差し出した。

「一応、誕生日プレゼント用意したんだよ。受け取って」
「ああ、礼を言う・・・・・・この長い箱は・・・なんだ?」



「真剣」
あ、真剣って言うのはこっちの真剣のこと。
→真剣〔しんけん〕・・・木刀・竹刀と違って実際に人を殺傷できる刀剣。(三省堂・新明解国語辞典より)

「・・・・・・」
今日も私は真剣です。真面目の方の真剣です。
いくら真田が険しい顔をしても、呆れようとも気にしない。
必死で選んだ誕生日プレゼントなんだけどな、真田ってどんなものが良いのか良く分からなかったから。
それでも小さな声で「礼を言う・・・」と言われた事が嬉しかった。



常日頃から真剣。
私が言っても説得力無いけど、真剣じゃなかったら真田を好きになる事も無かったと思う。
だからいつも真剣って事。

まぁ、私が真剣と言えば真剣、冗談といえば冗談。
それが一番分かり易いから今度からはそれで確認してください、真田。





修正 05.05.28.

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