不器用な僕らの進展 3










ほとんどが極悪部長と極悪マネージャーに仕組まれた事だということが後に発覚した。


真田がなんとかして仁王と柳生の誤解を解いたところで私たちは部室に集まった。
今回の首謀者のと幸村、被害者の真田と私、それととばっちりを受けてしまった柳生と仁王。


「まさかあんなに上手くいって、期待以上のものを見れるとは思わなかったけど」

相当笑い倒したのか、涙を浮かべながら幸村は言った。


「そうよ、私がしたのはドリンクを真田に渡しに行かせること、それと部室に待機させることだけ」
「ちなみに俺は真田にドリンクを待つように言ったのと、早めに練習を切り上げさせたことだよ」

幸村の隣に座った彼女は、幸村同様涙を浮かべている。
そんなに笑っていられるのは首謀者だけだ。


「おい幸村……真田とはともかく、とばっちり食らう俺らは何も面白ないんじゃが……」
「ごめんごめん、本当、想定外だったんだよ。それにしても……ぶっ」
「あれは、本当……タイミング、良すぎ、だったわよねっ……あはははは!!」

首謀者二人、再び腹筋崩壊。
こうなると問い詰めようにも問い詰められない。


「あの……お二人とも……」
「ん?」
「はい?」
「す、すみませんでした。神聖な部室で、人様に見せられるものじゃない有様を曝してしまって……」
「事情は真田君から聞きました。今回は仕方のないことでしょうし、目を瞑りますよ」
「……大人な対応じゃのぅ、柳生」
「仁王君が子供なんですよ。まあ、あんなに狼狽する姿は久々に見ましたが」
「……黙りんしゃい、柳生」
「ああ、あれはびっくりした!まさか仁王のほうがあんなに真っ赤になるなんて思わなかったよ」
「こう見えて彼、意外と純じょ「柳生それ以上言うたら絶交ぜよ」

やばい、絶交とか言う辺り中学生らしさマックス過ぎる。
さっきの真田には劣るけど可愛すぎる。見た目とのギャップ良い。


「それと、紳士柳生の動じなさにびっくりした……」
「それ、俺も同感じゃ」
「よくある事でしょう。男女の仲とはそういうものです」
「大人だ……」「大人じゃ……」

これまた見た目とのギャップがこれまたすごい良い。

そんなこんなで柳生と仁王に関する要らない知識が身についた。
無駄すぎるけど、何かがあるとすれば彼らとの関係がクラスメイトから知人に昇格したぐらいだ。





「……真田、大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫だ」

柳生と仁王との会話の中、空気のごとく、壁にもたれかかって黙っていた彼に話しかける。


「えっと、あの、ごめんね。私の友達が」
「いや、それを言うなら俺の方も、幸村が」
「それは酷くないか?弦一郎?」

真田が静かに驚いた。
幸村が、私からは見えないけど、多分この様子だととんでもない笑顔で微笑んでいるのだろう。
背後からのオーラだけで、背筋が凍った。
ご愁傷様真田!


「あら、人の心配してる場合かしら?」
「ひやあぁぁ!」

耳元で囁かれるの呪詛、もとい言葉に、びっくりしすぎて変な声が出た。
私らしくない悲鳴。うわー、気持ち悪い。


「真田君、は耳が弱いみたいよ」
「何の情報教えてんの!!」
「耳でも攻めたらいつもと違う可愛らしい声が聞けるかも」

うふふ、と可愛く綺麗に笑う
だけど言ってることが末恐ろしいよ!!
ていうか純情な真田になんてことを吹き込むんだ馬鹿!!


「あら、馬鹿だなんて、誰に向かってそんなことを言っているのかしら?」
「ごめんなさい、つい勢いで」

後が怖いので謝っておきます。


「ふむ、そうなのか」

数秒経ったあと、納得したかのようにそうつぶやいた真田の声を、うっかり聞いてしまった。
真田が要らない知識を身につけました。










+++++










首謀者二人の指示で解散し、自主練が終わるよりも少し早くに私と真田は部活を追い出された。
騒がしくない二人の帰り道を味わえ、との部長とマネージャーの命令だ。


「今日は、何か、いろいろとごめんね……」
「俺の方こそ……すまなかった、無神経で」
「いやいや」
「……」
「……」

真田が黙り込んでしまった。
私も、あまりの気まずさに言葉が出てこない。
あまり心地良くない沈黙が続く。
ああ、苦手な空気だな、と思って俯いた。


視界に広がる、赤い赤い夕焼けが伸ばした真田と私の影。
引き伸ばされても、彼との身長差は相変わらずのまま。
もちろん、繋いでいない手も、そのまま影に映し出される。

手は、もちろん繋いでみたいと思う。
行動に移さないのは、このひん曲がった性格の所為か。
それはもちろんある。なかなか素直になれないこの性格が原因であるのは確かだ。
でも、きっと、それだけじゃない。理由のない確信。
なんだよそれ。自分の事なのにわけがわかんない。


手を、真田に気づかれないよう、少しだけ彼の方に伸ばす。
真田の手の影に、私の手を重ねる。
影ならば、ねえ、こんなにも簡単なのに。


どうしてだろう、難しいよ。
どうしたらいいんだろう、分からないよ。











突然、温もりが、私の伸ばしていた手を包み込んだ。





驚いて顔を上げると、頬に添えられる手。

思考で認識するよりも前に、落とされた唇の熱。


止まる思考、高まる動悸、熱に浸蝕される身体。





それはおそらく数秒間のこと。
しかし、感じた時間はとても長く、それはもう息苦しくなる程の長い時間だった気がする。


その熱が離れてもなお、動かない思考、治まらない動悸。

このまま私、死んでしまうかもしれない。それでもいい。
そんな月並みの言葉、馬鹿らしいと思っていたけれども、止まった思考ではそれが精一杯の表現。
ああ、私も馬鹿だ。だけど、それでも良いって思ってしまった。




、といつものように苗字で呼ぶのではなく、名前を紡いだ真田。
なんだか、くすぐったい。



この時点で私の思考は回復し始めていて、
ああ、きっとこれは誰かが真田に吹き込んだに違いない、と確信していた。

乗ってやるものか、と素直じゃない私の性格が反抗するも、の呪詛が、それを押さえ込んだ。
仕方ない、従ってやるか、だなんていうやり取りは全て照れ隠しの産物。ただの言い訳。

私にはただ、勇気が足りなかっただけなのだ。
一歩、彼に踏み込む、その勇気が。





「弦一郎」

勇気を出して紡いだ言葉。大好きな、彼の名前。
それを聞いて彼は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んで、私の名前をもう一度紡いだ。

まだくすぐったいし、やっぱり慣れない。
けど、悪くないと思った。


見兼ねた悪友たちに背中を押され、やっと踏み出した第一歩。
不器用な私たちの、初めての進展。














10.03.18

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