透明な壁があるなら乗り越えて、今をそのときに変えてくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君の声を聞かせて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春が来るかもしれない。ドアの窓から臨む景色を見ながら、私は密かにそう思った。

 

桜はまだ咲いていない。教室から出てしまえば廊下は凍えるように寒く、手を洗うにも躊躇いが生じる。

外は旋風が吹きぬけ木枯しが舞っていった。そんな今日この頃。

やはり的中、春のようだ。

 

 

「俺と・・・・付き合って、ください」

 

 

少しだけ離れたところにいる男の子がそう呟いた。私は、目を見開いた。

身なりは普通、背はあまり高くはなく目が少々細いように思えた。まぁ悪くはない顔をしている。

言うだけにどれだけの勇気を使ったのかはわからないが、顔は赤みが強いように感じた。

私は息を飲み、少し視線をそらした。こういうポジションに回るのは初めてだった。

 

 

「えっと・・・・・・」

「あっ、今、返事、返さなくてもいいから・・・・」

「あ・・・ううん」

 

 

視線を戻す。男の子は少し泣きそうな顔をした。その顔が少し心臓を動かした。

私はうるさい鼓動を悟られないように胸の前に手を置いた。

いよいよだ。これで春はくるんだ。私は唇をかみ締めて、少し息を吐き出した。

 

さぁ、聞かせてくれ。君の声を。

 

 

 

 

「・・・・わ、私―・・・・」

 

 

 

 

「なにやってんの」

「ぎゃあっ!」

 

 

 

くそぉっ・・・思わず声を上げてしまった。すぐに教室の中にいた男の子と女の子、二人が気づきよってくる。

私は声をかけてきたやつの顔をみずにひっぱり、急いでその場を離れた。

 

誰だかなんて、声でわかる。

このタイミング、なんでかわかる。

 

 

 

 

 

やつしかいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー。なんであのタイミングで話しかけるかな」

「いやだなぁ。なにそのずっと俺まで見てたような言い方」

 

 

覗き見は悪趣味だよ、そう続けて滝萩之介はいった。

やはり滝も見ていたらしい。

 

別に私は覗き見したくてしていたわけではない。滝をひっぱりながら歩いた廊下を振り返り思う。

三年の階から玄関に向かうこの道には誰の姿も見当たらなかった。私たちの足音と声だけがよく透る。

ただ、弁解するならば彼らがいた隣のクラスに私がたまたま係りの仕事をしていて、

用事を思い出し入ろうとしたら彼らを見かけて止まってつい聞き入ってしまったのだ。

あんなことしたのも始めてだし、プライベートなことなので心苦しかったが、好奇心はそれを勝った。

結局彼女の返事がなんだったのかは、滝によって阻止されてしまったけれども。

前を向き、歩きを遅める。

 

 

「結局あの子返事どうしたのかな・・・」

「さぁねぇ。が覗き見なんてしてるからうまくいくものもうまくいかなくなったかもよ」

「なにそれ。滝が声かけなければよかったんでしょー」

「だって、が不審者並みに不自然に教室覗いてるから」

「不審者で悪かったね・・・・」

 

「・・・・まぁ、きっと大丈夫だよ」

 

ため息をつく。滝はいつも私を何かに巻き込む。

正直何を考えているかわからなくて、それでもしょっちゅう構ってきては何かしら種を蒔いて去っていく。

今回はまぁ私が悪いといっては悪いけれども、ああいう場合はわざとらしく声をかけなくてもいいと思う。

単なる好奇心だ。興味というものだ。自分に言い聞かせる。

 

“滝君って、のこと好きみたいだね”  そう友人から言われたのは少し前。

 

私はそれまでまったく気づかずに普通に話をしたりふざけていたりした。今でもしているのだが。

でもそんなことを言われてしまったら意識せずにはいられない。

ましてや、先ほどのようなことがあったあとにフタリきりなど、案外平常心じゃいられなかったりする。

好奇心だ。でもなんでいつもいつの間にかにそばにいるのだろうか?気のせいだ。気にしすぎだ。

 

でも、一番気になる相手なのかもしれない。

 

「ねぇ、

「・・・・ん?」

 

不意に滝が足を止めた。

少しどきりとする。振り返りいつもと変わらない漂々とした顔をしているのに少し安心した。

 

「・・・・なによ」

「うん。いや・・・・って、好きな人いたりするの?」

 

びっくりして少し後ずさりした。

いつもはそんなことふざけているとき意外きくやつじゃない。

 

「なに、突然。気持ち悪いし・・・・」

「気持ち悪いってなんだよ・・・。好奇心?さっきの見てたら気になって」

「・・・・じゃあ、滝は?」

「俺?」

「うん」

 

「・・・・・・・・」

 

 

聞いてかしまったと思った。滝は黙ってしまった。

時計の音が遠くから聞こえてくる。時間がまるで止まっているような気がした。

いやな沈黙が続く。

気のせいだ。何かしゃべっくれ。いつもの滝とは明らかに違っていた気がした。

 

遠くで楽しそうな笑い声が聞こえる。さっきの人たちだろうか。

うまくいったんだ。きっと、彼女はあの声で返事をしたんだ。なんていったのかはわからないけれども。

やんで、また聞こえる声。つたない、若々しい声。

大丈夫だよ・・・そういえば、滝はそういっていた。

もし何かどこかで間違えて、透明な壁を越えてしまっていたら、あそこにいたのは私たちだったかもしれない。

そう思って、すぐに消え去った。緊張感が消えていた。

滝がいつもと違う、優しげに笑ったかもしれない。

 

 

「教えない・・・・教えないけど、そのうちいえるようになるかも」

「なにそれ。本当に?」

「うーん。あともうちょっとってところ」

「もうちょっとって?」

 

 

滝は再び歩き出した。少し前にいた私とちょうど目の前で向かい合うことになる。

まるでさっきの出来事のような。それが私たちになった。

 

「気づいて、くれるまで」

 

私は少しだけ高い位置にある彼の顔を見上げた。

 

「・・・・気づいてもらうために言うんじゃないの?」

「それじゃ遅い気がするからさー。なんだかそいつ鈍そうな気がするし」

「鈍いって何よ」

「なんでが怒るの」

「なんとなくけなされてる気がして」

 

変なの。滝は笑った。

言葉で言わなくてもわかる仲ってあるのかもしれないけれども、私はわからないかもしれない。

やっぱり言葉がほしい。

 

君の声が聞きたい。

 

 

「じゃあ、もしその子がもう気づいてるとしたら?」

「無言で抱きしめとく?」

「言葉がほしいっていったら?」

「恥ずかしいからいやかも」

「なにそれ」

「でも」

「でも?」

 

「やっぱり、あともう少ししたら言えるよ」

 

 

 

そしたら

 

 

 

 

 

 

 

「君の声を聞かせて」

 

 

 

 

 

 

 

 

At that time, the happy ending...?

 

 

 

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はい、明那さん!「空に描いた僕らの夢」一周年おめでとうございます。

遅くなってしまって申し訳ございません。それでもお祝いの気持ちは込めてこめて溢れさせて!(何)

微妙な関係ってものが私個人好きなので、甘くはない・・・のか?(自分的最後は甘くしてるつもり)

まぁ、わかりませんが、ともかく滝さんです。これでも!(笑)

単品ではじめて書いた挙句、半年振りくらいなのでなんだか文章なりたってないところありそうなのが心配ですが、

ともかく本当に心からおめでとうございます。

これからのご活躍を心から応援しております。それではこの辺で!

 

2006/02/19 浅野サユリ

 

 

 


Mr.Glider(元「地図にも無い場所へ」)の浅野さんに一周年記念として頂きました。
UPするのが遅くなって申し訳ありませんでした(汗)

えー、改めまして、素敵な滝夢をどうもありがとうございました・・・っ!

滝さんにときめきながら読ませて頂きました(笑)こういう微妙な関係も私は大好きですよ!
本当に本当に、素敵な夢をありがとうございました!!   06.02.25. 坂田明那

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