どうかずっと、このままで。












ス ノ ウ ド ロ ッ プ













今日の朝やっていた天気予報があたってくれることを願いながら窓の外を眺めたけれど
どうもあたりそうにない雰囲気が漂っていて思わず溜息をつく。

部活がなくなってしまえばいいと思っているわけじゃないけれど
・・・いや、やっぱりなくなって欲しいのかも知れない。

あってもなくても君の姿は見ていられるし、大きな意味で言えば一緒にいられることにかわりはない
かわりはないんだけど、でも


「(・・・雪、降ればいいのに。)」


ふたりきりでいられる時間が、違う。

雪さえ降ってくれたら、それも積もるくらい降ってくれたら
午後からの練習は中止になって、君と・・・
と一緒にいられる時間が増える。
そしてそれを待つ時間さえ恋しく思えるハズなんだ。

朝の天気予報では、東京は昼から雪
それも結構降るって、一度降り出したら夜まで止まないとアナウンサーが言っていた。

まぁ天気予報ほどアテにしちゃいけないもんはないよね・・・

そうは思っても、やっぱりまだ何処か諦め切れない俺が居る。
またブルーになることを承知で腕時計をちらりと見遣ったら
授業終了時刻まで30分を切っていた。

授業は早く終わって欲しい、けどその前に雪が降ってくれることばかりを願う
運動部に所属する人間としては間違ってるけど

滝萩之介一個人としては、致し方ないのだと・・・正しいと

思っちゃ駄目かな、やっぱり。


「(だって、4日ぶりのデートだし・・・)」


早く会いたいし(毎日会ってるけど)
早く手繋ぎたいし(昨日部活中にこっそり繋いだけど)
早く笑顔が見たいし(毎日見てるけど)
早く声が聴きたいし(毎日聴いてるけど)

(けど、)

早く、俺だけに向けられるそれらに会いたい。

(俺だけの視界に居る君は全然別物だから。)



黒板に先生が並べていく真っ白い文字の羅列も
今の俺にはまるで意味が無いものでしかなくて。



「(・・・あと20分。)」












正直なところ、間違ってるとは思うのよ、
思うんだけどさ・・・!


「(雪よ降れー・・・いやでも降ったら降ったでやっぱり困るのかな、滝も。)」


雪が降ればさ、ほらっ今日一日・・・滝と居られるなぁ・・・なんて
思ったりすることからして既にマネージャー失格なんだろうけどでも・・・


「(とか思ってる内に授業終了まで残り15分・・・)」


やっぱり、駄目かな。
こんな不純な動機じゃあ神様だって叶えてくれないよねー。

滝だって、私と居るよりテニスしたい・・・かも知れないし。
私は滝と居たいんだけど、そんでこの間それを跡部に主張したら頭殴られたんだけど。
(言ってみただけなのに・・・!!レディーに対して何してくれてんのあの坊ちゃん・・・!)


「(だって仕方ないじゃん、これでもマネージャーである前に乙女なのだからー・・・)」


・・・自分で言っといてなんだけど寒いわ。
でも仕方ない、事実は事実だし。

それというのも全部滝が悪いんだから・・・そうよ、滝の所為にしてしまえ。

全部、全部、滝が・・・私をこんなにも駄目にする滝が悪いんだ。

それと、期待させた天気予報。


あーもう、たった4日じゃないの・・・明日だって休みなんだし・・・



「でも明日はなぁ・・・(バレンタイン前日・・・)」
百面相で独り言の最中悪いんだけどよ、・・・
「っうわぁ!?しっ・・・宍戸・・・」
「そんなに驚くなよ・・・」
「っご、ごめん・・・え?あれ?授業・・・」
「授業って、あのな・・・HRも終わった後だぜ?大丈夫か? 」
「あ、うん平気・・・って何、あ、そっか部活だね・・・」
「え?いや、雪降り出したから今日は練習なしって」
なんですって!?
「・・・いや、だから・・・」
「・・・っ・・・」


宍戸にそう言われてからやっと私は窓を見遣った。
そこには、私がぼんやりしてる内に降り出したらしい

真っ白い雪がちらちらと舞い踊ってる姿があった。


「夜まで止まねぇらしいから、今日の分の練習はまた明日ってことで。」
「・・・・・・」
「えーと、・・・ま、そういうわけだからお前から滝に」
伝えればいいわけね!?
お、おう・・・ってかお前今日なんか変・・・」
「よし、了解したわっまた来週!」
「っおう・・・・・・って待て、明日だっつーの!話聴けよ・・・っ」
「わかったわよ明日ね!じゃあバイバイっ」
「・・・はぁ・・・ったく。」


机の上に出していたノートや教科書、ペンケースを全部鞄に放り込んで
私は少々乱暴に席を離れた。
適当に相槌を打って引き止めてくる宍戸を振り切り、滝の教室へ急ぐ。
後ろから宍戸の溜息が聴こえた気がした。

走っちゃいけない廊下を走り抜けながら、
宍戸は私の為に滝への伝言を頼んでくれたのだろうと考えて
心で「サンキュー」を唱えた。

ラッキーなことに先生と擦れ違わないまま、4つも隣の滝の教室にたどり着けた。
廊下の人通りは予想以上に少なくてどれだけ自分が呆けていたのかを思い知る。

躊躇することない私の足は教室のドアを開けてすぐ向かいなれた滝の机を目指そうとするけれど
教室には滝しか居なくて、入ってすぐ思わず足を止めてしまった。




「・・・・・・」




滝の机はとは逆で、窓側。
自分の机に座り窓の外を見ている、綺麗すぎる少年の横顔に
は息が止まってしまったような錯覚を覚えた。

ゆっくりと振り返り、滝は呆けているを優しい眼差しでとらえるとまた柔らかく微笑んだ。
その笑顔に我に返ったはぽつり、少年の名前を呟く。


「滝・・・」
・・・来ると思った。でも走ったら危ないよ?」
「だっ、だって・・・雪・・・」
「・・・・・天気予報、あたったね。」
「・・・私を、待ってたの?」

「・・・もちろん。」


カタン、と音を立てて椅子から立ち上がると
誰もいない教室の中で立ち尽くしているに向かい、滝は歩みを進める。


「4日ぶり、だね?こうして二人っきりになるの。」
「っうん・・・、あー・・・」
「・・・?」
「(っヤバイ、嬉しすぎて顔が熱い・・・っていうか心臓煩い・・・)」
・・・?」
「・・・っあ、えっと、明日、今日の練習分明日に延期だって・・・」
「そっか・・・宍戸が伝えにいけとか言った?」
「なんでわかるの!?」
「なんでって、宍戸と同じクラスでしょ。」
「あっそっか・・・そうだね・・・」
「大丈夫?」


のそのしどろもどろな様子にくすくす笑いながら、滝は彼女の少し乱れた髪に指を通した。


「だっ大丈夫・・・平気・・・」
「そう?・・・・・・髪乱れてる。」
「あっ走ってきたから・・・や、やっぱ駄目だね!廊下走るのって・・・」
「元気なも好きだから、怪我しないんならいいけどね。」
「っ・・・」
「先生にみつからなくてよかったね?」
「うん・・・(ヤダ・・・)」

「――――
「っ・・・はい・・・(っ声、近い・・・眸、見れない・・・)」

「こっち向いて?」
「・・・っ滝、あの」


がそう言って少し顔をあげたと同時、彼女の髪を梳いて いた指が頬を伝い
唇で止まった。

これは【少し黙って】の合図。

間近でかち合う眸。
今までの経験からは、次の彼の行動を理解できてしまい
目を伏せた。


「――――。」


少しばかり足が強くなった雪が降りしきる空を切り取る窓を横目に
重ねた唇を離して、彼女を抱きしめると

彼は「今日は一緒に居られるね」と呟いた。

その声に、彼の背中を抱き返した彼女が「うん」と呟くまで、あと数秒。

















―――― END.













少年型パラノイアドールのかみりさんから、サイト一周年記念に頂いた滝夢です。
UPするの遅くなって申し訳ありませんでした(汗)せっかくサイト一周年当日に頂いたのに・・・!
もう素敵過ぎて嬉しすぎて感動しすぎてます。(何)
純情なヒロインと滝さんに惚れ惚れしながら読ませていただきました。
本当に、本当に素敵な夢をありがとうございました!!   06.02.15. 坂田明那

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