「国光のブァカーーーーーーー!否定位しときなさいよーーッ!」


ある晴れた部活の始まる前の時間。
青春学園中等部3階廊下にてそんな声と乾いた音が響き渡った。






















「……」



頬を手のひら形に赤くした男子テニス部部長、手塚国光。
先日ドイツから帰ってきてテニス部にも復帰した男だ。




その隣で、痛々しげにその頬を見る同じく副部長、大石秀一郎が恐る恐る、肩を叩いた。



「てっ…手塚……」



「…なんだ?」



声だけ聞くと不機嫌、と分かるが、表情からは読み取れない。
が、黙々とテニスウエア着替える手塚国光から発せられるオーラを読み取る事が出来る人間が居るなら。



こう評価するだろう。



「あれ?どうしたの手塚。
今までに無いほど面白くないって滲み出てるけど。」



クスッ、と意地悪そうに笑いながら評価したのは、3年不二周助。
背中には黒い羽。
尾?骨辺りからは、先がとがった尻尾が見えるほどに人の不幸が楽しい、という様な笑みだ。



「…別に、なんでもない」




「なんでもなかったらに平手打ちはされないと思うけど。
っで、何を否定しなかったのかな?」


実に楽しそうに、不二周助は手塚に近づいた。
その後ろから、同じく3年の菊丸英二も続く。
多少青ざめているのは気のせいではない。



この2人は同じクラスで、更には手塚に平手打ちをしたという少女も同じクラスだ。



「そうそう。すっげぇ機嫌悪かったんだぞ?
俺が悪いわけじゃないのになんか背中にチクチク刺さる視線で謝らなきゃいけない気分になるくらいにっ!」



ちなみに、 の前の席は菊丸。隣は不二だ。
そしては越前といい、テニス部1年の越前リョーマの姉である。
そのリョーマが、口を開いた。



「…朝は機嫌悪くなかったっス。」


「って事は、やっぱり学校でなんかあったんスね」



嬉々として話に参加してきたのは、2年の桃城武。
他にも部員は居るが、部室に居るのは彼等だけだった。



「で、何があったの?僕に是非とも聞かせてほしいなぁ?」



ニコニコと不二が手塚に聞くと、手塚は長く長く溜息を吐いた。








事の始まりは昼休みに遡る。
手塚国光、という少年は眉目秀麗、成績優秀、更には品行方正で生徒会長、テニスの実力も全国区。
性格も少し硬いところがあるが、それでも誠実であると言ってしまえばそれも魅力の1つだろう。

…もてない筈が無い。



今日も今日とて、手塚に恋焦がれる少女が勇気を振り絞って手塚に告白をしていた。



「…すまない。俺は君とは付き合うつもりは無い」


「…っ…や……やっぱり越前先輩と付き合ってるって噂…本当だったんですね…っ!」




涙声で、少女は落胆した。
美少女と言ってもいい少女は泣くのを我慢して手塚を見つめた。

手塚は肯定するつもりは無いが、否定すると長引きそうで黙る事を選んだ。
すると、少女は肯定と受け取ったように、涙ながらにお幸せに…っと去っていった。





ふう、と溜息を吐いて手塚は教室に戻る。
そして授業後、何処からか情報を入手した が3年1組の扉の前で仁王立ちして待っていた。

そして冒頭に戻るわけである。









「………」




「…………くだらなっ」



呆然とする桃城の横で、不二が面白くない、と呆れながら吐き捨てるように声を発した。




「元々はその女の子の勘違いからだった訳だけど…
でも結果だけを見れば、に了承取らないでダシに使って断ったって思われても仕方ないんじゃないかにゃ?」




「…やはりそうだろうか」




手塚も思い出して少しは冷静になったのだろうか。
ちょっと申し訳ない気分になったのか、険悪な雰囲気はなくなっていた。




「だったらさっさと謝ってもらいたいもんねー」








部室の扉にもたれるように、は部室の中を見ていた。
微かに不機嫌なのは、仕方ない事だろう。



「っていうかなんで、否定しなかったの」



「……」



「いや、否定すると誰とも付き合ってないんですねって食い下がってくるからだろうけど」


「分かってるなら聞くな…」


1度否定して疲れたのだろうか。
額を押さえて顔を背けた。


「もてて嬉しくない?」


「別に」


「……独身貴族にでもなるつもりか?」


「そんなつもりもない」


「じゃあなに?本気で私の事好き?」


「いや、全く可能性は微塵もない」


「ほんとに?」


念を押して聞いてみると、自信なさげに言い足した。


「………多分な」







「で、どうして怒ったの?は」



リョーマが聞くと、は少し分からない?と言うような顔でリョーマを見返した。




「…だって国光と付き合ってるなんて噂が流れたら…」



「流れたら?」




「景吾とか景吾とか侑士とか景吾とか侑士がうるさいんだもん」



「……否定するのも面倒って事だな」


結局、噂を否定するのを望むのも、黙っているのも己の為だったという、話。
















君と在る為にの秋葉樹里さんに頂いたリクエスト夢です。
素敵な夢を書いていただき、本当にありがとうございました!!!  坂田 明那

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