眠い、眠すぎる、ありえない、いや、ありえてるんだけど。

意味の分からない心の声。しかし、この声のおかげでなんとか意識を保っていられた。閉じそうになる目をを自分なりに精一杯開けようとしたり、授業を進める先生の話に頑張って耳を向けたり、とにかく襲ってくる睡魔と私は格闘していた。いっそ寝てしまえばいいのだが、それには抵抗があった。これでも私は普段(先生の前で)はごく普通の真面目な生徒だからだ。こんなことで目をつけられてたまるか。えっ?しょうもない?しょうもないとか言うなよ。これでも必死なんだから。
……ああー、やばい、本格的にテンションがおかしくなってきた。


窓から涼しい風が吹き込み、髪をなびかせる。心地良くて、一瞬でも気を緩ませると寝てしまいそうだった。だんだんと瞼が落ちてくる。

もう諦めようかと思ったその瞬間、私の目を覚まさせたのはホイッスルの音だった。その高い音がした窓の外へと顔を向けた。


一番に目に飛び込んできたのは長身のアイツだった。

銀色の髪は日の光に照らされて輝いている。アイツの視線をたどってみると、その崎にはサッカーボールがあった。ああ、そういえば五限目は体育だって、アイツが昼休みに言ってたような気がする。アイツをずっと目で追っていると、アイツにパスが回った。ボールを持ったあいつはゴールへと走り出した。特に上手というわけでもない。だけど相手をかわし、確実にゴールへと近づいていく。
そして、大きく足を振りかぶって――。


再び、ホイッスルの高い音が鳴り響いた。


同じゼッケンをつけた人達がアイツの周りに集まる。何を話しているのか分からないが、嬉しそうな顔をしていた。日光が反射したからか、それはとても眩しく見えた。


アイツの周りに居た人達が散り始めた。
その時だった。


アイツはふとこちらを向いた。アイツと私の視線がぶつかりあった。
最初は私の気のせいかとも思ったのだが、どうやらそうじゃなかったみたいだ。


アイツ、鳳長太郎は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべると





ひかえめに、手を振った。





少し胸が高鳴る。だけどそれを悟られたくはなくて、ひかえめに笑い、ひかえめに手を振り返した。するとアイツは少しだけ驚いた顔をしてからさっきよりも明るい笑顔を私に向けた。そしてもう一度だけ小さく手を振ると、ボールを追いかけているメンバーの中に戻っていった。



アイツの所為で心臓がうるさくて授業は全然耳に入らなかったが、
おかげで眠気は吹き飛んで先生に怒鳴られる事は無かった。





06.08.09.  坂田明那

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