君は、優しすぎるんだ。











優しすぎると不器用な










また、やってしまった。


何度目の後悔だろうか。
そう思う度にため息が出て、気持ちも沈んでいく。





「し、深司・・・お前らしくないぜ!いつもみたいにぼやけよな!遠慮すんなって!」
「・・・・・・」
「うっ・・・」


そうやって隣で俺を励まそうとしている神尾。
そんな神尾にいつものようにぼやくわけでもなく、もちろん礼なんか言うわけもなく、俺はただ無言で見つめ返すだけだった。
神尾は、そんな俺を奇妙な物を見るような視線を返してきた。


何だよ、その「うっ・・・」て。それはいくらなんでも失礼だろ・・・。本当、ムカつく・・・。


と、心ではそう思うものの、重い口は動こうとしてくれない。
代わりに吐き出されるのは、濃いため息のみ。やはり言葉は出てこない。





「伊武くん、またを泣かせたわね!!」
「・・・・・・」
「あ、杏ちゃん・・・!」


いきなり現れた橘の言葉が、深く心臓に突き刺さったような気がした。
やはり、言い返せない。
それは自分の気力のせいだけではなく、彼女の言葉が間違っていなかったからだ。





橘が言ったとは俺の彼女のことだ。
そんな彼女を泣かせてしまったのは今朝の事。
いつものように一緒に登校して、他愛もない話をしていた。
それだけならよかったのだが、いつもの様にぼやき始め、つい言い過ぎてしまった。
神尾相手ならそんなに酷いという事でもなかったが、相手は
結構泣き虫な彼女は耐えられずに泣き出して、走り去ってしまった。
クラスが違う為、とはその時以来顔をあわせていない。

だけど、俺が落ち込んでいる理由はそれだけじゃなかった。


泣かしてしまったのは、これが一度だけじゃない。
だから余計に不安だった。



次こそは、本当に嫌われてしまうんじゃないか、と。



今までは許してきてくれた優しいでも、今度こそは嫌になってしまうんじゃないかと、不安ばかりが胸を満たす。
後悔したって今更無駄なのに、どうしても立ち直る事が出来ない。

本当、自分がムカつく・・・。





「ちょっと伊武くん、聞いてる?!」
「・・・ああ」
「はぁー・・・この調子じゃ聞いてないみたいね」
「そうだな・・・」
「?」


橘と神尾は二人そろってため息をつく。
だから何なんだよ、本当苛々するなー、ちゃんと説明してくれよな・・・。
なんて思うけど、やっぱり口はついていかない。
自分で言うのもなんだけど、重症だな・・・。

そんな風にほんの少し自己嫌悪に陥っていると、橘が明るい声で何かを言っているのが分かった。





「教室の外で、が待ってるよ」





それまで机に突っ伏していた俺は、椅子を跳ね除ける勢いで起き上がった。















・・・っ!」


教室のドアを勢い良く開けて外に出ると、すぐそこにはいた。
教室側の壁に寄りかかり、彼女は柔らかく微笑んでいる。


「深司」


彼女が紡いだ言葉はとても柔らかく、そして心地良い響きだった。
しかし、どう続けて良いのか分からず、俺はすぐに表情を曇らせた。
柄にもなく、黙り込んでしまった俺に、彼女は優しく言葉をかける。





「一緒に、帰ろう」

「・・・分かった、鞄取ってくる」

「うん!」


笑顔で返事をした彼女に笑顔を返し、俺は教室へと鞄を取りに戻った。










「伊武くん、どうだった?」
「ああ、まぁ・・・」
「フフフッ、は優しいからね」


そう言って、橘は微笑んだ。
神尾が凄く羨ましそうにこっち見ているが、今は放っておこう。時間の無駄だ。
俺は鞄を引っ掴んで、急いで教室を出た。





、お待たせ」
「じゃぁ行こっか」
「うん」


素っ気無い返事をして、二人並んで廊下を歩いていく。
嬉しいくせに、やっぱり素直にはなれない。
しばらくは、二人の間に沈黙しか流れなかった。


やっとの事で俺が口を開けたのは校舎を出たところだった。


「あのさー・・・」
「うん?」
「今朝は、悪かった・・・すんまそん」










「・・・・・・プッ」


俺が勇気を出して謝った数秒後、彼女は何かに耐え切れなくなって、吹き出した。
俺にはが吹き出した理由が分からなくて、ただ笑い続ける彼女を見る事しか出来なかった。


一通り笑い終えた彼女は、乱した息を整える。
ようやく落ち着いたらしい彼女に、俺は抱いた疑問をぶつける。


「あのさ・・・なんでそこ笑う?」
「フフッ・・・いやぁ、さ・・・そんなに気にしてたんだ・・・と、思って・・・」


再びは笑い出す。どうやらツボにはまったらしい。
しかし、そんな状態でも必死に言葉を紡ごうとする。


「こっちこそ・・・ごめんね。泣き虫なばかりに・・・不安にさせちゃって・・・」
「いや、俺が酷いこと言うか・・・「ううん」


は俺の言葉を遮った。そして笑顔で言葉を続ける。





「深司は、悪くないよ」





君は、いつもそう、優しすぎるんだ。





「悪くなんか、ないよ」


脆くて、泣き虫、だけど優しすぎる。










だから俺は、こんなにも惹かれるんだ。










「じゃぁ、帰ろっか!」
「・・・ああ」





こうして何度も繰り返される、優しすぎる君と不器用な僕の日常。

心地良すぎる、僕と君の毎日。










06.03.28.  坂田明那 inserted by FC2 system